「やる気がない…」「死にたい」「殺したい」
このようなネガティブな気分になったことはないでしょうか?
この状態をアノミーといいます。
アノミーとは?
アノミーとは、無秩序・無連帯のことです。
社会学者エミール・デュルケームが提唱しました。
帰属集団から離れて、糸の切れた凧(たこ)のようにふわふわと漂います。
人はこの状態になると気が落ち込みます。やる気が無くなります。
精神病、うつ病になります。
最悪の場合、自殺や殺人をします。
弱肉強食の世界で理性を忘れ、動物的本能に立ち返ってしまいます。
動物のように「生きるか、死ぬか」という2つのことしか考えられなくなり、「自分が死ぬか、相手を殺すか」という発想が生まれてきます。
脳の機能でいうと、理性や抽象思考を司る前頭前野に血流が回らず、扁桃体で感情が拡張されて、側頭葉で嫌な記憶ばかり思い出して感情的になっている状態です。
アノミー状態こそ「悩みを作り出している根本」なのです。
このアノミーにはパターンがあります。
人の基本的な行動慣習
アノミーではない、人の行動慣習(エートス)の基本形の図がこれです。
飯田剛史 宗教社会学における現象学的視点と存在論的視点 P.Lバーガーとデュルケーム p.53より
私は人間をアセスメントするときにまずこの図をイメージします。
悩みの根底がこの図に集約されています。
・人は外に見える「客体化」された世界を、「内化」という「意味づけ」をして、「主体化」という自分のものとします。
・それを外に「外化」という形で表現して、「客体化」した世界を作ろうとします。
・この一連の流れがあります。
・これがどこかで崩れるとアノミーという精神病に近くなります。
過去記事
人間のエネルギーの動力源はどこから来るのか?
でも書きました。
アノミーのパターン
上の行動慣習(エートス)が崩れるとアノミーになります。
アノミーのパターンは主に2つあります。
飯田剛史 宗教社会学における現象学的視点と存在論的視点 P.Lバーガーとデュルケーム p.54より
図-2では、客体化がないアノミーです。
客体化がないので、社会のあらゆる統制や規範や束縛から解放されて、そのまま自分の主体化に返ってきます。
ある意味、自由な状態とも言えますが、客観的な視点がないので、他人の世界(社会)とぶつかり合います。
例えば、社会ではいきなり服を脱いで全裸になることは法的に取り締まられますが、アノミーになるとその「客観的な視点」がなくなります。
本人は脱いで何が悪いんだ、私の勝手じゃないかと開き直るのですが、社会の世界観と衝突します。
理性なく動物的な本能をさらけ出している状態。
自信満々に開き直った「無敵の人」とも呼ばれたりしますが、根拠のなくリスクを犯す危険行動を取って破綻していきます。
図-3は、内化(刺激)と外化(反応)しかないアノミーです。
自分の主体化が薄まっており、ほとんどありません。
廃人のように無気力的になります。
精神病やうつ病的な状態です。
図-2,図-3は行ったり来たり、薄かったり濃かったりします。
必ずしも固定的ではありません。
対処法
カウンセリングのときは「この人は客体に寄っているのか、主体に寄っているのか?」をまずは傾聴して洞察します。
外の世界の話が多く出てくる場合、客体に寄っています。
なので内化させて主体化させるようなアプローチをします。
アスペルガーなどの自閉症スペクトラム障害の場合は、中心(主体化)がなく、外の客体化された世界の一つに深くコミットしている特徴があります。
逆に、主体に寄っている場合は、外化させて客体化させるアプローチをします。
うつ病であれば話が内へ内へ向かいます。
分裂病(統合失調症)であれば話は外へ外へ拡散していきます。
その人の状態に応じて対処していきます。
アノミーは帰属集団から離れているから起こるといっても、どこかの仲間に属そうとしなくてもいいです。
確かに家庭や学校や社会や、仲間集団から「疎外」されるとアノミーに陥りやすくなります。
しかし自分(自己)という帰属からさえも離れているという内的な現象だからです。
人が合理的な”行動”を貫こうとする場合、その”動機”は「非合理的」な体験を受けたことに決っています。
徹底的に、理不尽で、不満で、問題で、不幸になるような非合理的な出来事があるほど、人は突き動かされます。
これらを統合する方法についてはまた後述します。
(参考文献)
宗教社会学における現象学的視点と存在論的視点:P・L・バーガーとデュルケム
Phenomenological Perspective and Ontolgical Perspective in the Sociology of Religion:P.L.Berger and Durkheim 飯田 剛史
https://ci.nii.ac.jp/naid/130005402357/
過去記事
VRは臨床心理療法で応用できるか?