【概要】
輸液とは、血管内、皮下、腹腔内に、大量の液体を投与することである。小児は、体内の水分・電解質および酸塩基平衡状態の調節機能が未熟であり、下痢や嘔吐、脱水により、容易にバランスが崩れやすい。

小児輸液は、水・電解質の補正・維持を目的として、しばしば持続的に行われる。定期的かつ長期にわたる抗生剤などの薬物投与が必要な場合、与薬経路の確保のために輸液を行うことがある。しかし、小児は体重あたりの体液の割合、とくに細胞外液の比率が高く、体液の変動が大きいこと、とくに乳児では、尿濃縮能が未熟であるなどの特徴があり、オーバーフローすなわち輸液過剰に陥るリスクが高い。

スポンサーリンク

【輸液の経路】
①末梢の静脈から確保する場合
②中心静脈での確保で場合(長期の薬剤投与や高カロリー輸液など特殊治療を行う場合に用いる)

①【末梢静脈内持続点滴】
目的は、
(1)異常な体液の喪失がある小児に対して、経静脈的に輸液を行い、水・電解質・栄養の補正、維持を行う。
(2)抗生物質やその他の薬剤を、定期的に時間投与する場合の与薬経路として血管の確保を行う。
(3)血液製剤や抗がん剤など、経静脈的以外に適した与薬経路がない薬剤を使用する場合の経路とする。

【穿刺部位】
長期にわたる持続点滴が予想される場合には、以下の点に留意して選択するよう心がける。
(1)確実かつ必要な輸液が行えるじょうぶな血管であること。
(2)関節運動の影響を受けにくく、固定しやすいこと。
(3)利き手や歩行などの小児の生活上の制限が少なく、また、おしゃぶりなど小児の癖を妨げない部分を選択する。
(4)年長児では、小児とともに輸液中の日常生活を考えて、本人の希望を取り入れるとよい。

【必要物品】
処方指示箋、輸液薬剤、輸液セット、エクステンションチューブ、三方活栓、留置針(翼状針、テフロン針、頭皮針)、固定用テープ、アルコール綿、駆血帯、肘まくら、トレイ、点滴スタンド、秒針付き時計あるいはストップウォッチ、(必要時:計量済み固定シーネ、輸液ポンプ、フィルター)

②【経中心静脈持続点滴:CVライン】

CVラインの挿入は無菌室で行われる。小児の場合は手術室などで麻酔下で行われる。がんや消化器系の先天性心疾患に対する治療や栄養状態の維持改善。挿入期間は長期に及ぶ。

目的は、
(1)末梢静脈では血管の刺激性が強い薬剤を使用するために血管を確保
(2)長期経口摂取が不可能または不十分な場合、経腸滴栄養摂取の中止により腸管を休め、消化液の分泌を抑制し、修復をはかる場合の栄養状態を維持・改善する(経静脈性高栄養)

【穿刺部位】
鎖骨下静脈、内頸静脈、下大静脈、正中静脈など

【必要物品】
処方指示箋、輸液薬剤、輸液セット、エクステンションチューブ、三方活栓、留置針(翼状針、テフロン針、頭皮針)、固定用テープ、アルコール綿、駆血帯、肘まくら、トレイ、点滴スタンド、秒針付き時計あるいはストップウォッチ、(必要時:計量済み固定シーネ、輸液ポンプ、フィルター)

【実施】
末梢静脈、中心静脈ともに準じる。
手技は末梢静脈は看護師、中心静脈は医師により施行される。

1、小児の情報収集、プレパレーション
2、物品準備
3、点滴ラインの作成、ダブルチェック
4、小児と親への説明(細くて触れにくい場合は温罨法などの工夫)
5、小児の体位を支える
・手背の静脈:手首の下を枕で固定
・足背の静脈:枕で下肢を固定
6、穿刺部位の5~10cm心臓側に駆血帯を巻いて血管怒張
7、穿刺部位消毒
8、小児と実施者とタイミングを合わせて「1,2の3で刺すよ」と声かけする
9、点滴ラインを接続して滴下の確認
10、針の種類を穿刺部位に応じて固定(ラインにループを作ることで抜針を予防)
11、シーネの固定(手の幅に合わせて手関節を固定)
12、輸液速度の設定と滴下状態の確認
13、小児に終了を伝えてがんばりをねぎらう「歩くときは点滴さんも一緒に連れて行ってね」
14、片付け
15、記録

【管理の実際、持続点滴中の小児の観察】

身体面
①バイタルサイン
②全身状態、疾病症状
③嘔吐、下痢、発熱など水分出納に関連する症状の有無
④in-outバランス:輸液量、経口摂取、尿量
⑤体重の変動
⑥輸液療法、薬物療法による副作用症状の有無

輸液ライン
①輸液量、輸液速度
②輸液残量
③ポンプ設定、充電状態
④刺入部:針先のずれ・輸液のもれ・カテーテルのつまり・静脈炎・感染の有無
⑤固定部:テープかぶれ・循環不全・圧痕・圧迫の有無
⑥ライン:屈曲・閉塞、凝固、空気混入、引っ張りの有無、三方活栓の向き

心理面
①点滴に対する理解
②機嫌
③点滴に対する気持ち、不安やストレスの有無

日常生活面
①食事摂取状況:摂取量、食欲など
②遊び、日常生活動作における支障の有無
③行動制限、必要以上の抑制の有無
④行動制限:清拭、シャワー浴、洗面、手洗い、歯磨きなど
⑤点滴の刺入部やラインをさわるなどの有無
⑥移動時の様子

環境面
①点滴スタンドの位置
②周囲の危険物の有無
③家族、看護師、他児など

家族
①輸液療法への理解
②持続点滴への不安、ストレスなど
③面会時の小児とのふれあいの様子:抱っこ、遊び、移動時の様子など

【刺入部(小児の一般状態)の留意点】

1)一般状態
乳幼児は点滴漏れがあっても、痛みを言葉で表現できなかったり、うまく伝えられなかったりする。刺入部の観察のほかに、機嫌や啼泣などの観察も重要である。

2)刺入部
発赤、腫脹、疼痛、熱感を観察し、点滴漏れや静脈炎の徴候の有無を確認する。穿刺した箇所の拡大、留置針の屈曲の有無を確認する。一般的に刺入部の固定は滅菌されたドレッシング材を用いるが、子供は発汗が多いため、ドレッシング材が容易にはがれて抜去する危険性が高い。確実に固定を行うためには、乳幼児には伸縮性があり粘着力が高い不透明のテープ(エラテックス)を使用することが望ましい。
固定テープの上に薬剤が浸み出していないか、刺入部位全体の腫脹の有無を十分に観察し、手で触れて確かめる。とくに乳児は皮下脂肪が多く、腫脹と皮下脂肪の区別が難しいため、左右差の有無を見比べて確認する。

3)血液の逆流
体液バランスが維持されれば24時間の持続点滴は中止され、抗菌薬やステロイド剤の投与のために点滴ルートをヘパリンロックすることが多い。子供の体動や啼泣により血液の逆流が起こり閉塞しやすいため、陽圧をかけながらヘパリン入り生理食塩水を注入し、血液の逆流を予防する。

4)固定の程度
刺入部およびルートを固定しているテープ、ドレッシング材のはがれ、緩み、外れ、圧迫がないかを確認する。固定が緩いと抜去の危険性があり、きつすぎると循環障害が起こる。また、抜去予防のために使用した固定部位を覆うネットや、固定を安定させるために使用したガーゼなどが外れていないかを確認する。

5)皮膚炎、かぶれ
刺入部や周囲に発赤、かぶれ、潰瘍がないか、固定に使用したテープやシーネによる皮膚炎、かぶれの有無を観察する。刺入部以外の固定テープ、シーネの交換を週に2回定期業務として行い、必要な子供には毎日行う。また、固定部位の清拭や手浴を行い、皮膚の状態に合ったテープを使用して皮膚炎を予防する。

【輸液ルートでの留意点】
感染防止のため三方活栓は使用せず、側管注入口が圧縮ゴムタイプのものを使うのが望ましい。

1)巻きつき
寝返りや体動により子供にルートが絡まり、頸部や体幹を圧迫する危険がある。また、固定がずれると点滴漏れの危険性が高まるため、子供の活動性や行動をアセスメントし、バギーに乗せるなどして対処する。乳児期の子供はルートに興味を示し、引っ張って遊んだり、かじったりする危険がある。このような様子がみられたら、子供の手の届かないところに遠ざける、タオルなどで隠すなどして対処する。

2)夜漏れ/破損
接続部に緩みがないか、外れていないか、破損がないかを観察する。周囲の衣服やシーツが濡れていないか、薬剤の匂いがしないかを確認する。

3)屈曲
輸液ポンプを使用していても屈曲していると薬剤が注入されない。遊びに夢中になったり、眠ったりしている間にルートが屈曲して体の下にあることもあり、ルートをたどって観察する。また、ベッド柵に挟まっていないかを確認する。

4)気泡
空気塞栓予防のため、ポンプのアラームに頼らずルート内を目で見て確認する。

5)輸液セット・延長チューブの種類
使用する薬剤に適した輸液セットと延長チューブが使用されているかを確認する。また、点滴中も薬剤に適した種類かを確認する。

※輸液ポンプの設定

1)指示内容とポンプの設定
カルテに記載されている注射の指示内容と、子供の氏名、薬剤名、指示量が記載されたラベルが同じ内容か、ポンプの輸液速度が合っているか、指差し確認を行う。
ポンプに設定された予定量が、積算量とボトルの輸液の残量の合計より大きくないかを確認する。
指示量に合った輸液セットを使用しているかを確認する。輸液速度が10ml/時未満の場合、輸液量を確実に目で観察するために1ml≒60滴の微量用を用いる。

2)輸液ポンプの作動状況

・輸液・シリンジポンプ作動確認の手順

使用前
・電源がONになっていること、充電されていることを確認
・移動時以外は、充電のためプラグをコンセントに接続しておく
・輸液速度と予定量の入力間違いのないよう、設定時には指差し呼称で確認する
・輸液ルートの接続部、クレンメの位置を確認する

使用中
・点滴スタンドに取り付けるときは、転倒を予防するため、中止により下につける。
シリンジポンプの場合は、サオフォニング現象を予防するため、患者の刺入部と同じ高さに取り付ける
・刺入部、ルート接続部の薬液漏れがないことを確認する
・輸液量と残量の確認を定期的に行う
・輸液ポンプローラー部のチューブの位置は、毎日変更する
・アラーム発生時は原因を排除し、再開する
・ポンプを開ける際は、クレンメを閉じていることを確認する
・移動時以外には、充電のためプラグをコンセントに接続しておく
・ポンプに付着した薬液などは、速やかに拭き取る

使用後
・ポンプの汚れを拭き取り、MEセンサーへ点検に出す

3)自然滴下
輸液ポンプを使用すると血管外漏出や接続外れがあっても、強制的に注入されてしまうため、輸液ポンプの扉を開けて自然滴下を確認する。
ただし、循環器系、神経系に作用する薬剤が側管からシリンジポンプで微量投与されている場合は、自然滴下の確認時に薬剤が過剰投与される危険があるため、シリンジポンプの閉塞ランプの有無で確認。
輸液ポンプの扉を開けるとアラームが鳴るため、夜間は子供と付き添っている家族の睡眠を妨げないよう、アラームはすぐに消音。

※輸液量(積算量と残量)
輸液ポンプに表示された積算量と点滴ボトル内の薬液が減った量が一致しているか、点滴ボトルの残量が設定したポンプの輸液速度と同じ速度で減っているかを確認。
シリンジポンプの場合、輸液速度の管理は1ml/時以下の単位で厳密に行われる。シリンジ内の残量を目盛りで詳細に確認する。
微量定量筒付きの場合、定量筒内の残量を目盛りで確認。

※点滴スタンドの位置
言葉で説明して理解できる子供には、ポンプを触ってはいけないこと、点滴スタンドをどの位置に置いたらよいかを説明。
言葉での理解が難しい子供には点滴スタンドが転倒しないよう、手の届かない位置におく。ただし、ベッド柵を一番上まで上げても、ルートが引っ張られないようにする。ベッドの端から端まで移動する活動性のある子どもは、点滴スタンドの位置の調整だけでルートの伸展を回避できないため、子供の活動範囲をアセスメントして延長チューブを追加し、ルートを適切な長さに調整する。

ポンプの数値や記号、アラームや警戒ランプは子供が興味を示して押してしまうことがある。設定パネルの向きは子供から見えないようにする。

【安全・安楽について】

輸液を受ける小児の看護にあたっては、小児の解剖生理学的な特徴の理解、輸液速度や輸液量、全身状態、in-outバランスなどの観察が重要である。輸液ラインのトラブルや感染予防につとめるとともに、固定による皮膚トラブルや循環障害を予防することが必要。また、日常生活、成長・発達への妨げを最小限にし、小児が楽しく、その子らしく過ごせるように援助することが求められる。

(1)輸液量と輸液速度

輸液量は、小児個々の状態、24時間の不感蒸泄、汗・尿として喪失される水分量から、医師により決定される。小児の維持輸液量の算出には体重による算出法が広く用いられている。

※体重による小児の維持輸液量の算出法
●1~10kg 100ml/kg/日
例)8kgの場合
100ml×8kg=800ml/日
1時間の輸液量=800ml÷24≒30ml/時間

●11~20kg 1,000ml+50ml/kg/日(1kgの単位)
例)13kgの場合
1,000ml+50ml×3kg=1,150ml/日
1時間の輸液量=1,150ml÷24≒50ml/時間

●20kg以上 1,500ml+20ml/kg/日(1kgの単位)
例)25kgの場合
1,500ml+20ml×5kg=1,600ml/日
1時間の輸液量=1,600ml÷24≒70ml/時間

(2)輸液速度の設定と医療機器

輸液の注入速度や滴下数を調節するものとして輸液セットがある。これには、小児用と成人用があり、1mlに達する滴下数が異なっている。また、定量筒付きの輸液セットは、目盛りがついているため注入量が確実に観察でき、微量輸液を行う場合に用いられる。小児の輸液量や輸液速度は微量であることが多く、指示量に見合った適切な輸液セットの選択が必要。

※輸液セット
●微量輸液セット
・小児用輸液セット
・定量筒付き輸液セット
(目盛りがついているため、注入量が確実に観察できる)
①1ml≒60滴
②輸液ポンプを使用する場合
時間あたりの投与量が100ml以下に使用
③滴下数の計算方法
例①:1時間に50ml輸液する場合
1分間の滴下数=50滴で滴下

例②:500mlを5時間で輸液する場合
1時間の輸液量=100ml
1分間の滴下数=100滴で滴下

●成人用輸液セット
①1ml≒20滴
②急速に輸液を注入したい場合
③輸液ポンプを使用する場合
時間あたりの投与量が100ml以上でも使用可
④滴下数の計算方法
1分間の滴下数=1時間の指示輸液量/3
例①:1時間に120ml輸液する場合
1分間の滴下数=120/3=40滴で滴下
例②:500mlを2時間で輸液する場合
1時間の輸液量=250ml
1分間の滴下数=250/3=83.33
すなわち1分間の滴下数≒80滴で滴下

近年、輸液ポンプや輸注ポンプなどの医療機器が輸液管理に広く用いられている。機器を用いることでより微量の輸液管理が行えるようになったが、機器を用いる際には、それぞれの特徴や使い方を熟知しておく必要がある。また、それらのポンプ機器を過信せず、オーバーフローや輸液のもれなどを見逃さないよう、必ず看護師の目の前で確認することが大切。

(3)安静度の意味を解釈
感覚と運動は成長発達の基盤であり、欠かすことのできないものである。子供にとって、体や手指の動きを制限されることは、成長発達の過程全体に影響を与えることである。そのため、安全な点滴管理のために活動の制限が必要な場合、制限を最小限にとどめ、制限した状態で子供の安楽を考えなければならない。

Ⅰ活動範囲の制限
症状による苦痛の緩和、症状の改善のため、ベッド上での安静が必要だが、活動範囲が制限されたことによる苦痛で安静が守られず、点滴漏れや抜去などのトラブルにつながることがある。点滴中でも全身状態に影響がなければ、感染対策を講じたうえで、車椅子や家族に抱っこしてもらい、廊下を散歩して気分転換をはかる。また、プレイルームへいけない場合は、ベッドの上だけでなく、ベッドの脇にマットを敷く、バギーに乗せるなど、ベッドから離れて遊ぶ時間をつくれるように工夫する。

Ⅱ日常生活行動の制限
刺入部がシーネ固定されたことによって、指しゃぶりができない、おもちゃで遊べない、食器が持てない、本のページがめくれないなど、子供の日常生活行動が制限される。遊べるようにおもちゃを支える、食器を持つなど、シーネ固定によって制限された行動をサポートする。
子供の様子をよく観察し、活動制限による苦痛を緩和する。制限という発想ではなく、いまの子供の状態で何が可能かを考え、実践していく姿勢が大切。

(4)点滴中の子供を見守る;多職種との連携

子供の発達段階、普段の様子、行動パターンや性格を把握した点滴管理を行うため、入院時に家族から得た情報と、実際に子供を観察して得た情報をつなぎ合わせてアセスメントを行う。点滴中に子供は、どのような行動をとるのかを予測した輸液管理が必要。
保育士、チャイルドライフスペシャリスト等と連携し、遊びや学習、かかわりをとおして、点滴をしている子供がどのように過ごしているのか、感じているのかなど、点滴管理についての情報を共有する。この情報は、子供の個別性に合った固定やルートの管理を立案する際に活用できる。
点滴をしている子供の情報を多職種と共有することで、病棟全体で点滴中の子供を気にかける体制をつくれるよう努力していく。