ナッジ理論とリバータリアニズムとの違い

心理学・精神医学

ナッジ理論では「行動を操作する方法」を紹介しています。

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ナッジ理論とは?~行動を後押しする行動経済学~

「ナッジ理論」でノーベル経済学賞を受賞したアメリカのシカゴ大学の経済学者リチャード・セイラーは「自由を重んじること」を重要視しています。

これを受けてアメリカのハーバード大学のキャス・サンスティーン法学博士は、ナッジ理論を「リバータリアニズム・パターナリズム」として理論化を試みています。

ここで
・リバータリアニズム
・パターナリズム

の2つの単語について知っておかなければなりません。

リバータリアニズムとは?

リバータリアニズムとは「最大限の自由を尊重する政治思想・立場」のことです。

元々は古典派自由主義(クラシック・リベラリズム)と呼ばれていました。

アメリカ開拓者の思想です。

その中でも税金・増税を嫌い、国の奇兵隊にも頼らず、「自分のことは自分でやる、国は放っておいてくれ」という独立自立の思想です。

財産権や所有権を重んじます。(生存権もこの中に含めて考えます)

本当の自由思想の根本であり、これが今もアメリカの基本的な保守思想です。

なので反税金、反官僚制度、反福祉、反海外侵略、反国家主義、反グローバリズム、反統制です。

無政府主義と違うのは、政府の機能は最小限にする「小さな政府」「最小福祉国家」を目指そうとする所にあります。

本当の右翼と左翼の分け方を知ろう~Y=C+Iが方程式であれば有効需要の原理、恒等式であればセイの法則~~

世界の全学問の対立図【まとめ】

パターナリズムとは?

パターナリズム(paternalism:父性主義)とは、強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益のためだとして、本人の意志は問わずに介入・干渉・支援すること。

要するにパターナリズムとは「上の立場からの押しつけ」です。

上の立場からの押しつけは「大きな政府」の発想なので、「小さな政府」を目指すリバータリアニズムとは反対です。

リバータリアニズム・パターナリズムとは?

サンスティーン法学博士が言う「リバータリアニズム・パターナリズム」(Libertarianism-paternalism)とは「上の立場から自由を押し付ける」という意味です。
なぜリバータリアニズム・パターナリズムと呼ぶかと言うと、リバータリアニズムのパターナリズムの部分の思想と近いからです。

リバータリアニズムには、パターナリズム(paternalism:父性主義)の反対に、マターナリズム(Maternalism:母性主義)もあります。

マターナリズム(Maternalism:母性主義)とは「相手の同意を得て、寄り添いつつ進む道を決定していく」という立場です。


これはリバータリアニズムの立場に限ったことではありません。

コンサバティブでも、リベラリズムでも、ネオコンサバティブでも、ネオリベラリズムでも同じようにあります。

上からの押しつけか、同じ目線での提案か、という手段の違いです。

リバータリアニズムは立場や思想。パターナリズムは手段です。

リバータリアニズムのパターナリズムの中のナッジ理論と理解すること

ナッジ理論ではリバータリズムの中のパターナリズムを抽出して再定義しています。

しかし「リバータリズムとパターナリズムを合わせたものがナッジ理論」と大きな誤解をしている人がいます。

正確には「リバータリアニズムのパターナリズムの中のナッジ理論」「リバータリアニズムのパターナリズムとナッジ理論が似ている」です。

ロスキレ大学のペレ・グルボルグ・ハンセン博士ははっきりと
「リバータリアニズム・パターナリズムの一部がナッジである」
「あるいはリバータリアニズム・パターナリズムと共通部分集合である」

と述べています。(※1)
リバータリアニズム+パターナリズム=ナッジ理論ではありません。
リバータリアニズムという大きい枠組みの中の、パターナリズム分類の中のナッジ理論です。
A⊂B。ナッジ理論⊂リバータリアン・パターナリズムです。部分集合です。
なぜならパターナリズムとわざわざ言い分けているのは、他にマターナリズムもあるからです。

改めて図にするとこうなります。


(一部ナッジという考え方もあるため、わざとリバータリアン・パターナリズムからわずかにずらしてあります)

パターナリズムは多くの場面で、ネガティブで悪い意味で使われます。

リバータリアニズムは立場や思想。パターナリズムは手段です。

「リバータリズムとパターナリズムを合わせたものがナッジ理論」と言うと、ナッジ理論の意味も、リバータリアニズムの意味も、とても悪くネガティブになります。

例えば、
「ネコ」と「強い」を合わせたのがクロネコと言うようなものです。強いネコ=クロネコではないからです。

「リバータリアニズムのパターナリズムの中のナッジ理論」「リバータリアニズムのパターナリズムとナッジ理論が似ている」とは、
「強いネコ」の中のクロネコ、「強いネコ」とクロネコは似ている、というのが正しいのです。

例えば、
強いパターナリズムで言えば、国が干渉してくるもの、法的措置での博打禁止や行政指導。
弱いパターナリズムで言えば、家庭で親が子どもに言うことを聞かせる、というものまであります。

この枠組みの中でリバータリアン・ナッジ理論の理解を深めることが重要です。

(※1)
The Definition of Nudge and Libertarian Paternalism:Does the Hand Fit the Glove? Pelle Guldborg Hansen EJRR1(2016)
https://www.cambridge.org/core/journals/european-journal-of-risk-regulation/article/definition-of-nudge-and-libertarian-paternalism-does-the-hand-fit-the-glove/16D7A1CBCE9928E3E9ED713BF48C315C

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