一瞬で壊れる世界。アスペルガーはムンクの叫び(自閉症スペクトラム障害)

心理学・精神医学

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カウンセラーの友人が
「自閉症スペクトラム障害、特にアスペルガーの観る世界観は、ムンクの” 叫び ”に近い」
と言ってた。

エドヴァルド・ムンクの「叫び」(1893年)は、

幼少期に母親を亡くし思春期に姉の死を迎えるなど病気や死と直面せざるを得なかった1890年代のムンクが、
「愛」と「死」とそれらがもたらす「不安」をテーマとして制作し、
「フリーズ・オブ・ライフ(生命のフリーズ)」と称した作品群のうちの一作。
(中略)
この絵は、ムンクが感じた幻覚に基づいており、ムンクは日記にそのときの体験を次のように記している。

“私は2人の友人と歩道を歩いていた。太陽は沈みかけていた。
突然、空が血の赤色に変わった。
私は立ち止まり、酷い疲れを感じて柵に寄り掛かった。
それは炎の舌と血とが青黒いフィヨルドと町並みに被さるようであった。
友人は歩き続けたが、私はそこに立ち尽くしたまま不安に震え、戦っていた。
そして私は、自然を貫く果てしない叫びを聴いた。”

引用元:叫び (エドヴァルド・ムンク)

ムンクの「叫び」手記で共感するのは、

太陽は沈みかけていた。

突然、空が血の赤色に変わった。

私はそこに立ち尽くしたまま不安に震え、戦っていた。

という一文である。

まさに一瞬で変わってしまうアスペルガーの世界の恐怖感を表現している。

アスペルガー障害(自閉症について)

アスペルガー障害(自閉症)とはなんだろうか?

自閉症状の典型的(定型)として
1、コミュニケーションの欠け(言語障害や言語遅滞など)
2、社会性の欠け(独自のこだわり、理由なしに嫌がったりなど)
3、想像力の欠け(表情からの気分の読み取り、場の雰囲気の理解、共感能力の欠如など)

「知的障害者ではないけど自閉症の人」のうち、
1~3の全てに当てはまらないが、
どれか1つか2つは当てはまる非典型的(非定型)な自閉症を「アスペルガー症候群」と呼ぶ。

過去記事↓
アスペルガーの診断が消えたと話題に
https://libpsy.com/aspe-dsm5/908/

自閉症状の中で、
日常生活が可能な軽度の人から、
施設で要介護が必要な重度の人までいる。

余談だが、私自身も親の仕事の関係で知的障がい者の支援施設で幼少期を過ごした。

自閉症の重度から軽度な人まで関わりは多い。

友人にもたくさんいる。

彼らいわく、私が理解して接してくれるのでうれしいらしい。

接する中で特に注意深くするのは、生活の中での「こだわり」。

「法則性」「規則性」「固定的」「普遍的」なものに
彼・彼女らは「こだわり」を見出す。

よくあるのは、

電車、電車の時刻表、計算式、プログラム。

静的に、規則的で決まった動きをするので安心なのだ。

自分以外の周りがイレギュラー(ランダム)に動的に動かれると、

怒り、攻撃、パニック、発作、悲しみなど、

動物的本能(エス)に関連した感情表出をする。

 

規則的なものを見ている時、やっている時、

彼・彼女らは神様に抱かれているような安心感を得ている。

それを崩されると怒りったり、パニックが起こる。

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本人の中だけでの「こだわり」で行動するが、
周りから見れば意味不明なので、
気づかれなかったり理解されないことが多い。

勝手な自分ルールを作って行動する「わがまま」な人。
と周りから見られる。

すべての行動において、

最初に見たままの先行イメージを固定化

する。

初期入力されたイメージ、先行されたイメージで固定化する。

それにそぐわないと、
怒り、攻撃、パニック、発作、悲しみなどが起こる。

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ムンクの叫びで
日没の風景に耐えられなくなって発狂したように。

本来、世界はすぐ壊れる。
一瞬で壊れる。
常に変化しているから。

しかし自閉症は、変わりゆく世界に耐えられないのだ。

アスペルガーといえども、

積極的な性格の人もいれば、
消極的な性格の人もいる。

消極的な性格の人は、引きこもり的で内向的。
抑うつ的になりやすい。
正直、私もその傾向があると思う。
私の友人に多いのもこのタイプだ。

積極的な性格の人は、集団の中で往々にして嫌われる。
偶然的に芸術家や天才肌で目立っている人も少数いるが、
近づくと「独善的」で「傲慢」で「こだわり」が強いので攻撃される。
人が避けていく。

消極的なアスペルガーが、積極的なアスペルガーにいじめられている構図はよくある。

ここからは重度な事例から、軽度な事例まで紹介していく。

重度な自閉症の事例

トイレが消える

例えば、
「ここがトイレです」と教えるとする。
その日はそこがトイレだと認識する。

しかし翌日、トイレのスリッパの並び方が変わっていたり、
トイレに来た時間が違っていたり、
光の刺し方が変わっていたり、
それだけでトイレが消えてしまう。

トイレの存在が消えてしまう。

目の前にトイレがあっても、どこにトイレがあるのか分からない。

一瞬で壊れる世界。

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その場でもらしてしまう。

トイレの「先行イメージ」が初期入力されて、その後に、

「更新(アップデート)」
「上書き保存」
されない。

このように重症例だと要介護になる。

人が消える

自閉症の方にAさんを紹介する。

その日、Aさんは赤色の服を着ていた。

その日はAさんのことを記憶する。

翌日、Aさんは青色の服を着ていた。

先行されたイメージでは「Aさん=赤色の服」なので、
Aさんは消えてしまっている。

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「誰ですか?」となる。

場合によって、パニックを起こしたり、混乱して暴れてしまうこともある。

食事が消える

カレーを出したとする。

左側にカレーがかかっていて、右側にご飯の領域があった。

しかし自閉症にとっては、
幼少期のカレーは黄色で、右側にカレーがかかっていて、左側にご飯があった先行されたイメージがある。

すると、いま目の前にあるカレーは先行イメージと異なるので存在が消えてしまう。

一瞬で壊れる世界。

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「え?どこにカレーが?」となる。

場合によって、パニックを起こしたり、混乱して暴れてしまうこともある。

軽度な事例

家庭・学校・職場で明らかにアスペルガーに出会うことはよくある。

精神病もそうだが、
日常生活に支障がなくて本人が困っていなければ診断されない。

しかし周りが、
彼・彼女らの「奇妙さ、おかしさ」の特性に気付き配慮することが、
周りが巻き込まれることを少なくし、結果的に本人にとっても安心を与える。

「トイレのドアを開けてこい!」と意味不明な指示をする上司

私の関わった事例だが、
上司が「早くトイレのドアを開けてこい!早くしろ!」と怒り狂ったことがあった。

ちなみに仕事内容と全く関係ない。
それどころか他の社員も仕事で忙しいのに。

このアスペルガー上司にとって
「トイレのドアはすべて開いているもの」という先行イメージ(初期入力)があった。

言われた方は「???」と意味不明だ。

トイレのドアが開いていないことでパニック発作を起こして怒り狂ってしまったのだ。

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本人もトイレのドアが開いていないことによるパニック。
周りも意味不明さにパニックだ。

「罵声」という言語が足りない「コミュニケーションの欠け」
「トイレを開けろ」というこだわりの「社会性の欠け」
「相手に意味不明な欲求をして罵声を浴びせられてどう思うか分からない」という「想像力の欠け」

見事に3つとも体現してしまっていた。

赤ちゃんをみといて

育児をしている父親。

妻から「赤ちゃんを見ておいて」と言われた。

アスペルガーの父親は、赤ちゃんを真夏の高温な室内に置き去りにし、窓の外からずっと「見ていた」。

妻が帰ってきて赤ちゃんは一命を取り留めたものの、

言葉の意味をそのまま取ってしまう。

意味がわからない。

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「見ておいて」とは「面倒をみててね」という意味で、
「外から観察していてね」という意味ではない。

これが「想像力の欠け」である。

思ったことを言って何が悪いの?

「思ったことを言って何が悪いの?」も典型的な決め台詞だ。

例えば、他人が不細工だと思ったら「お前は不細工だ」と本人に言いにいってしまう。

幼少期からそうだ。

理由は「私が不細工だと思ったので不細工だと言って何が悪い」となる。

これも「想像力の欠け」だ。

なぜだ!?となる。

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まず1つ目にブサイクの基準が「一人一人違う」ということが理解できない。

2つ目に「他人がそれを言われてどう思うか」「傷つく」ということが理解できない。
想像力と共感性の欠如である。

時間になったらはダメ。「時計がこの形になったら」

アスペルガーは「イメージ」で動く。

例えば、特別支援学校などで
「5時まで勉強しようね」
と言ってはダメである。

なぜか。

仮に、その子の中で
「5時になったら家でテレビを見ながら寝ている」
という先行イメージがあったとする。

すると5時まで居ても立っても居られなくなり、貧乏ゆすりを始めたり、怒り出したり、
5時まで我慢することができなくなってしまう。

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「5時には家でテレビを見ながら寝ている」という行動を固定化しているため。

もし5時まで勉強させようとしたら

時計を目の前まで持ってきて、長針を12に、短針を5に合わせて見せて、
「時計がこの形(5時)になったら終わり」
と見せる必要がある。

「見た目」の「イメージ」を変える必要があるから。

まとめ

このように自閉症スペクトラム障害・アスペルガーの世界は、固定化するために、すぐ壊れてしまう。

すぐムンクの叫びになってしまう。

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「太陽は昼間に空の上で光っているもの」という先行イメージ(初期インプット)があるとする。

日没になって、太陽が西に傾くと・・

すぐ壊れる。

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雨の日で太陽が雲に隠れると・・

すぐ壊れる。

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世界は色即是空(しきそくぜくう)で常に移り変わり、変化していくものだという世界観が飲み込めず、苦しんでいるのだ。

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