分かる人には分かると思いますが、実際に両方の方に会って比較したことのない限り、
●アスペルガー(知的障害を伴わない自閉症スペクトラム障害)
と
●自己愛性パーソナリティ障害(自己愛性人格障害)
の違いが分からないことが多い
と思います。
私は生育歴や研究の上でも、彼らの中で育ってきて知人や友人もたくさんいて接しているので違いがよく分かります。
はっきり言うと、直接会って比較するのが一番わかり易いと思いますが、ここで違いを紹介します。
根本的な違い
知的障害を伴わない自閉症スペクトラム障害(アスペルガー)
と
自己愛性人格障害者
のまず大きな違いは先天的か、後天的かという違いです。
アスペルガーはほぼ全て先天性によるものです。
具体的には、脳の中枢神経系の機能的障害によって、見る、聴く、さわる、嗅ぐ、といった知覚を理解したり、周囲のできごとを見たり、聞いたりして、そのできごとの意味を知る機能(認知といわれる脳の働き)の障害があります。
それにより、対人関係の発達の偏り、コミュニケーション能力、特に言語能力の発達の偏り、想像力の障害及びそれに基づく行動の障害があります。
アスペルガーの診断が消えたと話題に -自閉症一本化の恐怖-(過去記事)↓
https://libpsy.com/aspe-dsm5/908
自己愛性人格障害(自己愛性パーソナリティ障害:ナルシシズム)は、後天的なものです。
育った環境により、自我が病的に肥大化してしまい、誇大自己・万能感・全能感を持つようになります。
そのため極めて現実検討能力の低く、精神病の手前の人格障害(パーソナリティ障害)と呼ばれます。
一知って百知ったつもりになる自己愛(過去記事)↓
自己愛性人格障害の特徴と成因(過去記事)↓
自己愛性人格障害の特徴と成因
どこが似ていると言われる原因なのか?
共通点として、脳の血流や神経伝達物質が健常者と比較すると正常ではなくなっているのは共通です。(単に心の問題だけではないということ)
またアスペルガー症候群(自閉症スペクトラム障害)と、自己愛性人格障害(自己愛性パーソナリティ障害)は両方とも、自閉症状の典型のような以下の傾向が一部で共通しています。(全て当てはまるのが典型的な自閉症です。)
1、コミュニケーションの欠け(言語障害や言語遅滞など)
2、社会性の欠け(独自のこだわり、理由なしに嫌がったりなど)
3、想像力の欠け(表情からの気分の読み取り、場の雰囲気の理解、共感能力の欠如など)
なので見分けが分かりにくいのです。
特にアスペルガーに特徴的なのは1、コミュニケーションの欠け(言語障害や言語遅滞など)です。吃音症(どもり)やチック症(長期のものをトゥレット障害)などが目立ちます。
※吃音(どもり):発語時に言葉が連続して発せられたり、瞬間あるいは一時的に無音状態が続くなどの言葉が円滑に話せない疾病。言語障害の一種のような。
例えば「おはようございます」の発声が「お、お、お、おは、おはようございます」などの連声型。
「おーーーはようございます」と、語頭の音が引き伸ばされる状態の伸発。
「ぉ、……(無音)」となり、最初の言葉から後ろが続かない無声型(難発、無音型)など人それぞれです。
※チック症:突発的で、不規則な、体の一部の速い動きや発声を繰返す状態が一定期間継続する障害。1年以上続くものをトゥレット障害という。
例えば、運動チックだと咳払い、短い叫び声、汚言症(罵りや卑猥な内容)、うなり声、ため息など。
音声チックだと、顔面の素早い動き(まばたき、顔をしかめるなど)、首を振る、腕や肩を振り回す、体をねじったり揺すったりする、自分の体を触ったり叩いたりする、口の中を噛む、他人の身体や周囲のものなどにさわる、など。
自己愛性人格障害者には、このようなアスペルガーの言語障害の傾向は、比較的には少ないです。
自己愛性人格障害はコミュニケーション能力はあるのですが、その内容についてあまりに神話化(妄想)にされすぎていて、こちらも共感することが困難で、
自己愛性人格障害者自身も、現実離れしているので共感能力が欠如しています。
そして自分のこと以外は興味ありません。
この点において、
3、想像力の欠け(表情からの気分の読み取り、場の雰囲気の理解、共感能力の欠如など)
のアスペルガー傾向とそっくりです。
見分けるポイントは?
アスペルガー症候群と、自己愛性人格障害を見分ける時のポイントは、「動機」と「行動」を分けて見て、「動機」に注目することです。
自己愛性人格障害者の「動機」には、常に誇大な自分への注目・承認欲求があります。賞賛欲求が強すぎるゆえに高慢です。
対して、アスペルガーの「動機」はそういうことにはわりと無関心です。
同じ「自分のこと以外興味ない」にしても、
自己愛性人格障害は、「外向き」(外から見る自分にしか興味が無い)、
アスペルガーは、「内向き」(あくまで自分の興味のみ)
です。
「外向き」な自己愛性人格障害は、単に誇大自己だけで相手が怒るように煽るだけでなく、たまに相手をおだててから、近づいてきた所をまた貶(けな)すという「操作性」もよく加わります。
アスペルガーは、あまりそういうことはしません。
ただアスペルガーの場合、自閉症傾向によくある「イメージが何より先行」しています。
家庭や学校や職場でも、聞こえる音、見えるもの、におい、触感、コップの色、筆立ての位置、時間etc..
全てにおいて「独自のこだわり」があります。
「独自の規則的なこだわり」が自己中心的と思われる
例えば、同じ「5時に帰宅」で、普通の人ならその時間になったら帰るという行動も、
アスペルガーは「時計」をイメージして、その「時計が定められた形」(5時なら長針が12、短針が5を指すなど)になったら
「帰る自分の姿」が確固たるイメージとして先行します。
なので居ても立ってもいられなくなり、もしその「時計の形」の時に自分がそのイメージ通り帰っていなければ、大なり小なり感情的なパニックを起こします。
「トイレのドアは全て閉まっているもの」という先行イメージのあるアスペルガーなら、トイレのドアが一つでも開いていたらパニックで怒ることもあります。
逆に「トイレのドアは全て開いているもの」という先行イメージがあれば、トイレのドアを全て開けるか、あるいは「早く開けて来い!」と他人に命令することもあります。
トイレのドアにかぎらず、部屋の電気のスイッチ、テレビのリモコンの位置、全てにおいて確固たる独自のこだわりがあります。
そのこだわりが崩れてパニックを起こし、そのパニックを受けた方・巻き込まれた方は、その意味のないことに理不尽を感じて、意味がわからなくなると思います。
そしてアスペルガー本人も周囲の刺激が多ければ多いほど、当然、先行イメージとの違いがあるので混乱して負担を感じます。
これは「色や音などを関連付けて覚えている」ことが多いためです。これを「共感覚」と言います。
特に数字や時間など規則性のあるものを好みます。
例えば、1は赤、2は青、3は黄など、ドは赤、レは青など、ミは黄、
ハンバーガーという単語で口の中にハンバーガーの味が完璧に再現されていたりします。
そうやって頭のなかで情報が組み合わされて操作されるので、
記憶力が良いというメリットがある反面、規則的すぎて汎用性がなく、対人関係で葛藤が生じやすいです。
例えば、「Aさんは、赤色で、車は~で、ナンバーは○○」で先行イメージでインプットされます。
翌日にAさんが青色の服を着ていたり、車の車種を変えてナンバーも変わっていたりしたら、パニックを起こして、Aさんやあるいは全然関係のない人に怒鳴り散らすこともあると思います。
言われた方は、その意味不明なことに理不尽を感じて、意味がわからなくなると思います。
1は赤色という先行イメージがあるのに、2という文字が赤色で書かれていたらパニックするでしょうし、
自分の先行イメージの中のハンバーガーの味でなければ激怒するでしょう。
結果「なんて自己中心的なやつだ」と思われるわけです。
自己愛性人格障害の場合は、自分が全人類・全宇宙の頂点にいるイメージはあるのですが、そのための共感覚、他人のイメージ色や、車のナンバーやトイレのドアやハンバーガーの味なんてどうでもいいのです。
なので、自己愛性人格障害は、アスペルガーのような健常者から見たら「?」と思うような無意味な「独自のこだわり」はあまりありません。
「社会性(モラル)の欠け」「想像力の欠け」による対人関係の苦しみ
アスペルガーも自己愛性人格障害も「自分のことしか考えてない自己中で自己主張の強い人」くらいに周囲から思われることが多く、普通に関わる分には(自分が相手に振り回されなければ)楽しいのですが、これが組織(家族、学校、会社)の中に入ると大変なことになります。
特に、「3、想像力の欠けによる共感能力欠如」の対人関係の苦しみだけでなく、モラルとしての「2、社会性の欠け」に苦しめられます。
例えば、
家族、学校、会社で、誰かが自殺したり、過労死したり、あるいは急に親族が亡くなって忌引きしても、アスペルガーや自己愛性人格障害者がその人に掛ける言葉は、
「あっそう。それで?」でしょう。
普通なら驚いて「それは大変でしたね」とか「なにか思い煩うことがあったのかな・・」とか一寸でも疑問に思ったり、言うはずですが、そんなことは微塵も、なんの関心もありません。
興味あるのは自分だけです。自分中心以外の世界は存在してないのです。
自己愛性人格障害者なら人によってはモラルが低いので「ゴミが一人死んでくれてよかったよかった。」(そんなことよりオレに注目してくれ)と遺族の家まで誹謗・嘲笑しに行くくらいの行動はします。
あるいは、これ見よがしに大げさに「自分がいかに混乱しているか」「自分がいかに動じずに強靭であるか」(そんなことよりオレに注目してくれ)をアピールしてくることもあるでしょう。
他人やその周辺人脈の話なのに、自分の話しかしないのでよく分かると思います。
自分のことしか考えられないので周囲と対立してしまう
このような場面の他にも、特に病人や障がい者や子どもなど社会的弱者は軽視する傾向(そもそも無関心)なので、その時にモラルの低さに周囲との軋轢や葛藤が生じます。
また、同じく家族、学校、会社で、彼らに「仕事などの行動を押し付けられる」ことが多いと思います。
アスペルガーは行動を順序立ててマニュアル化していればその通りに動きますが、裏を返せばそれ以外の行動はできません。
例えば、時間が指定してあれば、残業代云々関係なく、その仕事が途中でも時間にさっさと帰ってしまうでしょう。逆にやることに熱中しすぎて離れられなくなる場合もあります。特に周囲への断りや謝罪もありません。
さっさと帰られると、周囲の人は、仕事を押し付けられた気分になると思います。また断りや謝罪もないので余計に勘違いされやすいです。
自己愛性人格障害の場合は、人によってはよく働くかもしれませんが、やるのは自分のことに関わることだけです。
全体では重要なことでも、本人がやりたくなければやらずに、それどころか他人に責任をなすりつけて責任転嫁することしか考えていません。
こちらがプレゼントや好意を向ける行動をしても、返ってくるのは唾(つば)だけです。
正確にはこちらが「唾を吐きかけられたような気分になる」のです。
最初は良いフリをしていても、すぐに飽きます。
本人も周りも巻き込まれて損をして得をしない
このように、何も知らずに関わった人は、十中八九、利用されるか、振り回されて、頭を抱えて苦しむことになると思います。
そしてアスペルガーや自己愛性人格障害者自身も、周りから疎遠されて、なぜ自分がそうなるのか分からず苦しむのです。
誰も得しません。
組織・集団(家族、学校、会社)の中に、このようなことに理解ある人がいればいいですが、ほとんどの場合ありません。
日本では100人に1人がアスペルガー、10人に1人は自己愛性人格障害者と言われます。
特に理解を考慮した上で、お互いに適度な距離をおけるようになるのが最善の方法です。