「給料は我慢料」という昭和大景気の頃の老人の妄言を信じるな

政治経済・近代学問

給料は我慢料

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「給料は我慢料」という言葉があります。

給料とは、仕事で嫌なことがあっても我慢したからこその対価で「お金がもらえる」のであって、
我慢しなければそれは「趣味」であり、趣味なら自分が「お金を払わなくてはならない」というものです。

一見、良い言葉に聞こえますが、深く洞察すると、ひどい言葉です。

まず「我慢や忍耐が大切」ということまでは同意できます。

たしかに怠惰より忍耐強く勤勉な方が、自分のためにもなりますし、他人のためにもなります。

しかし『仕事で嫌なことがあっても我慢したからこその対価で「お金がもらえる」』という前提はおかしいです。

まず「嫌なこと」の定義が人それぞれや職種で違うからです。そしてそれに対する対価の量も違うからです。

例えば、
銀行に勤めるAさんはありえない理不尽なノルマを課せられて、それで取引先から悪質ないじめを受けて嫌な気分になったとします。
それで「我慢だ」といって月30万円の給料をもらいます。
物流センターに勤めるBさんはでありえない理不尽なノルマを課せられて、それで上司から叱責やパワハラを受けて嫌な気分になったとします。
それで「我慢だ」といって月20万円の給料をもらいます。

この時点でおかしいのです。

Aさんの給料より、Bさんの給料の方が低いので、Aさんの「嫌なこと」より、Bさんの「嫌なこと」の方が軽く見積もられていることになります。

本当に「我慢料」なら、同じように嫌なことをされて、全く同じ給料をもらっていないと「我慢した意味がありません」。

そして数十年後、Aさんは出世しましたが、Bさんは出世しませんでした。しかも二人とも給料は昔と変わりませんでした。

・・なんてストーリーが続くとしたら、どうでしょうか。

仮に続かなかったとしても、「全く同じ給料」で「全く同じように出世」していなければ、「給料は我慢料」という言葉は成り立ちません。

あるいは違う会社でなく、同じ会社内で、自分の上司と部下で給料が違うとしたらどうでしょうか。
「上司の方が給料がいいのは、自分より我慢したからだ」とでも思うでしょうか。
上司とあなたは、生きた時代や、境遇や、人間関係も全く違っていたはずですが、同じように我慢したから給料が違うのでしょか。
上司はあなたと全く同じように、同じ場面で、同じことをして、理不尽な叱責やパワハラや受けて我慢してきたのでしょうか。
そんなことはないはずです。

「給料は我慢料」という、この言葉の根底には、「全員が平等で同じ給料」という、北朝鮮のような独裁国家、あるいは刑務所のような共産主義・社会主義の一番おそろしい思想が含まれています。

そして何より、この言葉が一番叫ばれたのが、日本が朝鮮戦争などを背景に景気が上向いてきた昭和の高度経済成長期やバブル景気の頃だと思いますが、

その頃は、「年功序列」(年齢を取るごとに出世できる)「終身雇用」(老後まで必ず会社が面倒を見てくれる)がありました。

なので会社に勤めていても、「我慢していれば、年功序列と終身雇用で必ず良くなる。」という信仰があったのです。

では今はどうでしょうか?

年功序列で言われているような「出世による昇給」は、ほぼありません。
そしてまず「出世」がありません。

これは会社が不景気なために、人件費削減で上(課長や部長など)のポストが少なくなってきているためです。
昭和のように同期入社した全員が一斉に課長になるようなことはないのです。

城繁幸「7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想 (PHP新書)」(参考文献)

仮に100人の会社だったら、30人の出世枠があったとしても、そこに入っても昇給はなく、次はその30人の中の9人の出世枠、9人の中の2の出世枠…と、どんどん少なくなります。

そもそも現実には100人の会社で出世枠30人なんてありません。もっと少ないです。

組織論ではスパン・オブ・コントロール(Span of control:管理の幅、管理限界)と言って、1人で管理できる限界の人数は多くて30人くらいと言われています。
なのでコストと合理性を考えれば100人の会社なら出世枠は3人が妥当です。確率は3%です。

その枠に入るには、配属された場所や、人間関係や、その時の日本の景気や、出来事などの「運」も左右されます。

そしてその枠に入ったとしても、昇給がない(メリットがない)ので苦労が増えるだけ、
しかも新入社員でも最初の3年で見切られて人事異動があるので、その人事異動で本社や出世ルートから外されれば、もう二度と本流のルートに戻ることはできないわけです。
なので「若者は3年で辞める」のです。

別にやる気がないわけではありません。もちろん中にはやる気がないという理由もあるかもしれませんが、多くの人は「先を見越している」のです。↓
城繁幸「若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)」(参考文献)

この時点で、「我慢」していても報われない(出世・昇給はない)ことはお分かり頂けるかと思います。
それ以前に「努力」しても報われない(出世・昇給はない)のです。

遅かれ早かれ、歳を取るごとにこのリスクに気づき自分から仕事を辞めるか、あるいは勤めていたとしても50代にもなれば人件費削減で会社側から早期退職を勧められるでしょう。
終身雇用とは本来65歳の定年(65歳から年金がもらえる)まで会社が面倒を見るということですが、今では50代で退職している人が大半です。
あとの15年はアルバイト・パートをして埋め合わせています。

この「会社から早期退職を勧められる」というスパンもどんどん早まり、あと10年後には40代になるでしょう。
また、同時に年金がもらえる65歳からというのも、あと10年後には年金は75歳からになります。

つまり、35年の空白の時期が、必然的に作り出されます。

それどころか、日本国民の大半は非正規社員(派遣社員・アルバイト・パート)になります。
正規の正社員だったとしても40代で退職させられるので非正規社員(派遣社員・アルバイト・パート)に「いやがうえにもなる」ということです。

実際に、現在ですら正社員63.3%、非正社員36.7%で、年々、非正社員の割合が高まってきています。

非正社員はさらに増えるか 創論・時論アンケート (日経新聞:2013年5月12日付)より
https://www.nikkei.com/article/DGXNASGH09001_Z00C13A5000000/
(転載はじめ)
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総務省が4月末にまとめた労働力調査(3月分、速報)によれば、働く人(役員をのぞく雇用者)は5142万人で、うち正社員(正規の職員・従業員)が3255万人、非正社員(非正規の職員・従業員)が1887万人。割合にすると、正社員63.3%、非正社員36.7%となります。

以前はどうだったのでしょうか。データをさかのぼると、1980年代までは正社員が8割を超えていましたが、2000年代に入ると7割を下回るようになります。パート・アルバイトを中心とする非正社員層が膨らみました。

グローバル競争の激化などを背景に、企業がより柔軟にコスト調整できる非正社員を活用する動きが広がったのが一因でしょう。すると、現時点でざっと働く人の3人に1人という非正社員の割合はさらに高まるのでしょうか。
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(転載終わり)

ここまでで、「年功序列」「終身雇用」はすでに完全に崩壊しており、同時に「給料は我慢料」ではなくなったことも明白です。

いや!もしかしたら日本の景気が良くなってまた「年功序列」「終身雇用」の時代が来るかも!
・・と期待して我慢して働いている人も多いかもしれませんが、すでにそれが起こらないように「法律で禁止」されています。

具体的には、大きいところから順番で言うと、BIS規制と、労働契約法16条です。
BIS規制とは、国際決済銀行(BIS)で合意された自己資本比率による銀行の貸し出し規制のことで、簡単に言うと「日本の銀行は、日本の会社に投資するな」という銀行への規制です。

労働契約法16条は、1975年の判例の整理解雇の4要件において解雇は厳しく制限されています。
(※民法627条でも労働基準法第20条でも解雇原則は自由ですが、厳密には労働契約法16条の整理解雇の4要件の雇用義務で規制されています。)
(解雇)第十六条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

この「客観的に合理的な理由」というのが曖昧で、それがために不当な解雇をされたり、不祥事をして解雇されるべき人が解雇されないわけです。
どちらかと言えば、「解雇しないようにする」のではなく、「解雇されるべき人が解雇されない」ようにするための内容です。

この「解雇されるべき人が解雇されない」というのは誰のことかというと、会社内のノン・ワーキングリッチの人のことです。

ノンワーキングリッチとは、働かずに年収1000万円とか2000万円に達してしまってる、会社のOBに近いような上層部の人のことです。

年功序列・終身雇用という時代を生きた60代以上の団塊世代で、上がるところまで給料が上がりきったのに、それでも会社に居座り、月に2回の挨拶に顔出すだけで、莫大な月収・年収を得ている人々です。

本来なら儲けを出してないので退職なりで解雇されるべきですが、「解雇されるべき人が解雇されない」のです。
このノンワーキングリッチのせいで、現役労働者世代の収入は少なくなっています。

なぜこのノンワーキングリッチがお金を持っているか分かるかというと、日本の個人金融資産(日本中に散らばるお金)の6割以上は65歳以上の人のお金(年金)なのです。
それの残りの少ない4割を現役労働者世代で奪い合ってるのが現状という悲惨な状態です。

なので日本の銀行には、60代以上の人の山ほどのお金が「過剰貯蓄」されているわけです。

ここに「BIS規制」をかけているので、どうなるかというと、このお金が「日本の会社に投資されない」わけです。

一方で日本国債を買っているので安心といえば安心なのですが「買いすぎ」であって、それがために銀行がリスクを取らないので、日本の会社が不景気になるわけです。
(今はアベノミクスで、その国債を日銀が受け取って円を刷っていますが、BISがある以上、また銀行に戻されて、国債になります。それどころか海外に日本のお金が飛び、国債が売られてしまうので、あとは御察しの通り、物価だけ上昇させて給与は減って消費も落ち込むという最悪のスタグフレーションになります。)

つまり日本の現役労働者世代は、どう我慢しても、どう努力しても報われないように、最初からプログラムされています。

それどころか、労働契約法を改悪させて、5年で無期雇用の正社員にしようとしています。

改正労働契約法 -定年延長法に盲点、契約社員に大チャンス -プレジデントオンライン 2013年3月18日号より
https://president.jp/articles/-/8699
(転載はじめ)
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今年4月から改正労働契約法が施行される。目玉は、有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えた場合、無期労働契約に転換できる「5年ルール」だ。対象は、契約社員やパート、アルバイト、派遣、嘱託などの有期契約労働者(派遣社員は派遣元との労働契約が対象)。1年契約を繰り返して更新しているケースなら、5回目の更新後に無期転換の権利が発生する。契約期間中に労働者が申し込めば、契約期間終了後に無期労働契約に切り替わる。今年4月以降に結ばれた有期労働契約に適用されるため、5年ルールで無期転換する人が現れるのは2018年4月以降
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(転載終わり)

こんなことをすれば、会社は正社員を雇わないどころか、契約社員もパートさえも雇わなくなくなるので、「長期失業者」を大量に生みます。

こうなると正社員の負担が更に増し過労による過労死が増え、逆に全く新規に雇われない失業者が大量に出てきます。
それが「長期」に続くようになってしまいます。

では、我慢していれば解雇もされずに出世できる公務員は安泰か?といえば、本来は今まで書いてきたようなサラリーマン(一般企業の社員)の補助役なのです。そして、公務員の収入源はサラリーマンからの「税収」なのです。

そのサラリーマンの収入が落ち込めば、当然、公務員の収入も落ち込みます。

そこで「増税すれば」という話が出てくるのですが、増税すると逆に「税収は落ち込みます」
さらに経済活動における投資を抑圧させるので、さらに税収が少なくなります。

公務員は解雇はないものの、収入が少なくなる一方で、スキル(労働生産性)はないので、そんな無能な状態で一生を過ごせるかどうかは極めて厳しいです。

「お金」とは元々は物々交換が不便なために「引換券」として生まれたもので、それを「生産性ある利益」を出した場合に発生し、対価として得るのです。

会社のサラリーマンは、利益ある労働した対価で、お金(利益)を作り出します。
これを「労働生産性」があると言います。

しかし公務員は、このサラリーマンから「税金」というモノを取り上げます。
公務員の労働は、どれだけ大変でも「国から与えられる仕事」なので「労働生産性はない」のです。

そんな「他人のカネで生きる」という卑怯な生き方は、長いことは続きません。必ず報復されるでしょう。

このように、すでに「みんなが同じことやってれば平等に良くなる」という工業時代のケインズ型・家族経営型の昔の日本はとっくに滅びつつあります。

すでに21世紀に入ってからは、ハイエク型・競争型に切り替わっているのです。

そして今、10年経って国は滅び行くネオ・コーポラティズム(経団連と労働組合の敵同士が手を組んで労働者を管理しよう)に変貌しています。

これに対向するには、国民一人一人が「もう国は放っておいてくれ(レッセフェール)」「税を取るな」「自由に経済活動させてくれ」と、徹底的なリバータリアンになるしかないのです。

会社において「給料は我慢料」という昭和大景気の頃の老人の妄言を絶対に信じてはいけません。

それは今現在、大金持ちになっている権力者の、下の者を抑えつけるための妄言なのです。

一体かれらはその言葉で、何人の人をパワハラやいじめで我慢させ続けて自殺に追いやったのでしょうか。

「従順」と「素直」は違います。

現役労働者の人は「素直」になって、「我慢」という昭和の古い思想に対抗しなくてはいけません。

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