「甘え」と「空気」の心理学

空気と甘え

日本で誰も着目した人がいないので書きます。「甘え」と「空気」は日本人を特徴づける象徴的な心性ですが、

はっきり言うと「甘え」と「空気」は同じ意味です。

・・にもかかわらず、非情なことに、否定的な意味で使う時は「甘え」肯定的な意味で使う時は「空気」と便宜的に使い分けられています。

同じ意味なのに、肯定と否定と分けているので、同時に使った場合に「二重拘束(ダブル・バインド)」が生じて混乱してしまうのです。

これが大半の日本人の悩みの根本です。

定義を確認してみましょう。

「甘え」について

「甘え」とは、「周りの人に好かれて依存できるようにしたいという、日本人特有の感情」と精神科医・心理学者の土居健郎は定義しています。
土居健郎「甘えの構造」


具体的には「言わなくても分かる」「察せよ」と、自分や他人へ思い込んで欲求することです。
多くの人が勘違いして使ってる「甘えるな!」という意味、つまり「わがままで自分勝手に振る舞うこと」という否定的な意味ではありません。むしろ愛着形成で重要な概念です。

 

「空気」について
「空気(ニューマ)」とは、「あらゆる論理や主張を超えて人々を拘束するまことに絶対権をもった怪物」と評論家の山本七平は述べています。
山本七平「空気の研究」


昭和期以前は「その場の雰囲気に流されること」や「その場の空気に左右されること」は「恥」でした。
しかし、戦争を通じて、日本人独特の伝統的発想・心的秩序・体制として色濃くなりました。

詳しくはこちらでも書きました↓

「ごんぎつね」に観る日本人の心理とは?
http://libpsy.com/gon-fox/740

 

「甘え」は、「甘えるな!」と否定的な使い方がよくされます。「甘えなさい!」とは滅多に言われません。

「空気」は、「空気を読みなさい!」と肯定的な使い方がよくされます。「空気読むな!」とは滅多に言われません。

「甘えるな!空気読め!」と言うと、盛大に矛盾したことを言っていることになります。
「周りに依存してはいけない!周りに依存しろ!」と同じ意味です。

しかし、「甘えるな!空気読め!」という言葉は、なぜかよく聞きます。

心理学ではこれを「ダブル・バインド(Double bind:二重拘束)」と言います。2つの矛盾したことに縛られる状態です。

例えば、
教師生徒や上司部下のパワハラでよくある「事前にオレに聞け!」と言いながら、聞けば「自分で考えろ!自分で判断しろ!」という二重拘束
恋愛・夫婦間の別れ話やDVでよくある、相手のことが嫌いだけど、別れたら「周囲に私がどう思われるか」という不安で、嫌いと認められずに離れられないという二重拘束

 

前述した通り、
「甘え」は、「わがままで自分勝手に振る舞うこと」という意味ではなく、「周りの人に好かれて依存できるようにしたいという、日本人特有の感情」であって愛着形成で重要な概念です。
否定的な意味で使われてはいけません。肯定的な意味で使われる言葉なのです。

「甘えるな!」と他人に言うのは、それを言う人自体が、自分の言うことに強制的に依存させようとしている「甘え」なのです。
つまり、使い方が完全に間違っています。
自分一人で自分に向かって「甘えるな!」なら、まだ分かりますが、他人に対して「甘えるな!」と言う(欲求)する時点で、それは「甘え」になります。

「空気」は、「論理や主張を超えて人々を束縛するもの」で「その場の雰囲気に流されること」や「その場の空気に左右されること」は「恥」なのです。
こちらは肯定的な意味で使われてはいけません。否定的な意味で使われる言葉なのです。

 

「甘えるな!」と他人に言う人に限って、「空気読め!」というのは、その人の心の整理がついていない、あるいは言葉や論理的思考が未熟であり、教養もないのです。

言った方すらその矛盾を自覚していないわけですが、言われた方も言葉の整理が出来ていないと、この矛盾によって「ダブル・バインド」が生じています。

「空気読め!」と他人に言う人は、自分の一人称を「世間、一般、常識、みんな、社会、空気」と、複数形に言い換えることで、説得力と安心感を得ようとしています。

これは心理学では「過度の一般化」と呼ばれます。特に不安障害・人格障害・精神病によくある、「自分の考えや言うこと=世界の全人類が共有すべきこと」という「誇大自己の妄想」です。

平たく言えば、「甘えるな!空気読め!」とは、「みんなオレの言うことだけを聞け!オレが社会(空気)だ!それに従え!」という乳幼児期にもつ幼児的な願望そのままです。

他人にそれを言葉で言うあるいは、空気(言わずとも)で欲求することを「甘え」と呼びます。

本当に甘えていたのはどちらでしょうか?

「甘えるな!」と言われた方ではありません。「甘えるな!」と言う方なのです。

それに対して、言われた方が「きっと私のことを相手もわかってくれるだろう」なんて思っていれば、それも「甘え」です。

 

それを踏まえた上で、私は「甘えてもいいんだよ。空気読まなくてもいいんだよ。」と、正しい用法ではっきりと言います。

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記事を書いた人



時田憲一(ときたけんいち)こと時ニール(tokeyneale)です(・ω・)ノ
とある国立大学の教育学部/心理発達科学。心理学者・認定カウンセラー。動機付け理論・自己愛・対人関係が主な研究領域。数理統計データサイエンティスト。
ねこ好き・本好き・禅好き・PC好き。

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2 Responses to “「甘え」と「空気」の心理学”

  1. Tomoki Azuma より:

    世間一般で自己中心的に振る舞うことと考えられる「甘え」と自分を殺して全体に従うことと捉えられる「空気を読むこと」は一見正反対の概念だが、実は「空気を読め」と言う言葉の裏には全体の意見と称した身勝手な自己主張があり、それを人に押し付けている時点でそれは「甘え」と同義だということでしょうか?要約してみました。

  2. t.t より:

    かねてから「甘えるな」という言葉を使う人たちに対して強い疑問を感じていたので、この記事を読んで胸がすっとしました。
    彼らに「甘えとは何か」と聞いても、まともに答えてくれないんですよね。定義が正しいかどうかはともかく、誰かを非難するからには論理的に説明してほしいものです。

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