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小室直樹氏は唯識の手頃な解説書として三島由紀夫(みしまゆきお)の最後の小説である「豊饒の海」四部作を挙げていました。

仏教には多くの宗派がありますが教義だけがあって特別の信者もお墓もないという宗派が唯識の法相宗派です。
(だから副島隆彦氏が「本物の宗教は、法相宗と神道日吉派のみ」と言っているのです。)

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欧米の宗教常識から見ればありえないこの宗派が、いわば仏教の根本的な教義、唯識を説く宗派なのです。

この徹底的解説が「豊饒の海」ですが、小室直樹氏以外、どの学者も宗教者も文芸評論家もこのことを指摘していません。

「豊饒の海」は、輪廻転生の物語です。

一巻では、
松枝清顕(まつがえきよあき)

二巻では、
飯沼勲(いいぬまいさお)

三巻では、
月光姫(ジン・ジャン)
安永透(やすながとおる)

と転生していき、これを副主人公の本多繁邦(ほんだしげくに)が観察しています。
ここまでが初めの三部です。

しかし、最後の最後でどんでん返しがあります。

4人目の透(とおる)は全く異質の人物として登場します。

その輪廻転生を夢で見届けてきた本多は驚愕し、法相宗の寺の月修寺に82歳となった清顕のかつての恋人の綾倉聡子を訪ねます。

そのとき聡子は本多に、

『松枝清顕さんというかたはお名をきいたこともありません。そんなお方はもともとあらしゃらなかったのと違いますか?何やら本多さんが、あるように思うてあらしゃって、実ははじめから、どこにもおられなんだ、ということではありませんか?』

・・と言うのです。

この聡子の言葉を正当に解釈し、本多がそれまで大切にしてきた清顕の夢日記を透が焼いてしまったことを的確に理解すれば、三島のいっていることが理解できます。
つまり『人間の魂が輪廻転生することはない』ということです。

このように三島は魂の輪廻転生を明確に否定して、豊饒の海で三島が主題にした「唯識」が明確に打ち出されています。

唯識の思想は大変難解ですが、一言で言えば「万物流転」すべてのものは移り変わるということです。

仏教の空という論理は、すべてが仮説でありすべては関係であって実在するものは何もないというものです。

結論から言えば、魂の輪廻転生を否定した三島は、『生まれ変わって復活するのは何か』という宿題を読者に残したのです。

そして三島由紀夫は第四部「天人五衰」の入稿日に、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹自殺しました。

日本人として純粋に立派な軍人右翼としての最後を全うしたのです。

(補足)
この(通称)三島事件を通して『黒蜥蜴』や『葵上・卒塔婆小町』などで主演していて、
美輪明宏さんの髪が、一夜にして白髪に染まり、そして今の地毛を染めた金色に落ち着いたと言われています。

そうやって三島由紀夫さんの遺志は、美輪明宏さんに託されたのです。

2010年頃に私が見に行った美輪明宏さんの舞台では、美輪明宏さんが日本国旗をバックに、熱烈に日本の民族主義を説いました。
今ではその理由がとてもよく分かります。

美輪明宏氏は政治思想で言うなれば保守系護憲派ですが、こういう反戦右翼というのが一番素晴らしいのだと感じています。