こんにちは。心理学者/カウンセラーの時田憲一です。
今回はPSYCHO-PASS サイコパス3の主人公・メンタリストの慎導灼(しんどう あらた)くんの技術「メンタルトレース」のやり方を紹介します。
メンタルトレースとは何か?
PSYCHO-PASS 3(サイコパス3)の作中でこう解説されていました。
31:12~
特A級メンタリストスキル。
高度な共感によりボーダーラインを越境する。
状況、推理、統計を元にする。
練習すれば誰にでもできますよ。
他人の表情や動作を見るだけで思考を推測できる優れた洞察力。
慎導灼(しんどう あらた)くん曰く
「練習すれば誰にでもできますよ。」
とのことなので頑張りましょう。
リーディングの基礎
作中では「メンタルトレース」と命名されていますが、やっていることはよくテレビ番組の未解明事件の犯罪捜査で透視能力を持つFRB捜査官が出てきてプロファイリングするアレです。
初めて見る人だと「エスパーか」「霊能力者の霊視か」と感じるでしょう。
これらは「リーディング(Reading)」と呼ばれます。
まずは通常のリーディングの基礎を知っておきましょう。
必要な事前のメンタルセット
まず事前準備として大切なのは「リラックスしていること」です。
「リラックスモード」でないとリーディングはできません。
このリラックスモードを心理学では「変性意識状態」と言います。(ここでは分かりやすくリラックスモードと呼びます)
PSYCHO-PASS サイコパス3 2話「デウメソスの生贄」
より
廿六木天馬「なんじゃこりゃ?!」
作中でメンタルトレースしているときの慎導灼くんのバイタルサインは一気に低下しました。
これがリラックスモードです。
メンタリストの慎導灼(しんどう あらた)くんはメンタルトレースする前、イアホンをして「雨の音」を聴きます。
それが「リラックスモード」(変性意識状態)を発現する条件になっているからです。
リラックスモードに入るきっかけを「トリガー」と言います。
このトリガーを自分にしかけておかなければリラックスモードは発動できません。
事前に一人で集中してリラックスできる場所で深い催眠状態に入り、自己暗示をかけます。
例えば、人前で緊張してしまう人であれば、「右手の人差し指と中指を重ね合わせた途端、リラックスする」と暗示を入れて人前に立っているイメージを繋げます。
そして「私はすぐにこのリラックス状態になる」と内語で暗示をかけます。
なぜこの状態で暗示がかかるかというと、睡眠していないギリギリの催眠状態のα波(アルファ波:8~13Hz 未満)やθ波(シータ波:4~7Hz)は集中力とリラックスが最大限に高まると同時に、眼球の後ろにある海馬(記憶の中枢)という脳の機能にダイレクトにアクセスできるからです。
夢を見るとき、つまり熟睡しているδ波(デルタ波:3~7Hz)では眼球運動することで海馬に電気信号が送られて情報処理をするのと同じことです。
慎導灼(しんどう あらた)くんの場合、「イアホンをつける」「雨の音」をトリガーとして「雨が降っている」という暗示とともにメンタルトレースに入ります。
事前にその状況が落ち着くという自己暗示をかけているからです。
この状況を作った上で、次に以下の3つをします。
【第1段階】ミラーリング
【第2段階】同調ホメオタシス拡張
【第3段階】ハイパーラポール形成
【1段階】ミラーリング
ミラーリングとは、相手の動作をコピーすることです。
呼吸、口癖、声のトーン、身ぶりを真似していきます。
相手が使った言葉と同じ言葉を使ってオウム返します。
人は自分と同じものに親近感を持つためです。
対面でミラーリングをする場合は、あからさますぎないのがいいです。
あくまでさりげなくやっていきます。
すると、いずれ相手がこちらの動きに合わせてきます。
そうしたらシンクロ完了です。
通常は催眠療法やカウセリングで相手を安心させるために用いる手法です。
この信頼関係を「ラポールの形成」と呼びます。
対面ではなくコールド・リーディングする場合は、実際に動いた対象の動きを真似ます。
慎導灼(しんどう あらた)くんも、被害者のベッドで寝てみたり、部屋に行ってウロウロしてみたりと行った行動をしています。
これがミラーリングです。
【第2段階】同調ホメオスタシス拡張する
次に、同調ホメオスタシスに拡張させます。
ホメオスタシスとは「恒常性維持機能」です。
簡単に言うと、身体が自動的にその環境に合わせることです。
例えば、生物は、暑かったら汗が出て身体を冷やそうとします。寒かったら体を震わせて体温を上げようとします。
環境が変化しても体の状態を一定に保とうとする生体的働きのことをホメオスタシスと言います。
このホメオスタシスを相手と同調させます。
表面的なミラーリングだけではなく、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚の五感まで相手とそっくりになります。
なのでミラーリングの段階で、相手の五感までミラーリングすることは想定しておかなければなりません。
【第3段階】ハイパーラポールを形成
ミラーリングから、同調ホメオスタシスまで出来たら、あとはハイパーラポールを形成するだけです。
すでにミラーリングとホメオスタシス同調で、あなたは相手そっくりになっています。
そこから自分の空間へ相手を持ってきてきます。
目に見えない段階で信頼関係を構築するので、ラポールの形成の上の段階(抽象性の高い段階)なのでハイパーラポールの形成と呼びます。
これをすると思考や出来事を追体験することができます。
なぜかというとあなたは相手そっくりになっているので、感情や思考や、行動や起こった出来事を共有することができるからです。
これがPSYCHO-PASS 3の主人公・慎導灼(しんどう あらた)くんが「メンタルトレース」と呼んでいる正体です。
慣れないうちは催眠誘導できる人が必要
PSYCHO-PASS 3の作中では、相方のミハイル・イグナトフが「雨は止んだ」と慎導灼くんに変性意識状態を解除する単語を言うことで、メンタルトレース状態を解除しています。
これも「リラックスモード」のときに催眠状態を解除するトリガーとして仕込んでおきます。
自分と他人との境界線(ボーダー)をしっかり持っていないと、相手の心に飲まれてしまったり、催眠が深すぎて現実に戻ってこれなくなることが有るためです。
自己内観をしっかりしておくこと
相手の心に飲まれたり、催眠から戻ってこれなくなるのは、自分の心が未熟だからです。
相手の方が強いという意味ではありません。
自分の目的と意志がはっきりしていないのにやると自分をコントロールできなくなります。
例えるなら、目的地も分からない自動車に乗って、運転手も不在になるようなものです。
賢さとは自分の心の動きを知っていることです。
賢いとは、記憶力がよいと同義語ではありません。
賢いとは自分の心の動きを知っていて、それを最大限に活用できることです。
(参考)