「自立/独立」という名の宗教

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今では当たり前のように「自立しろ、自立しろ」と呪文のように言われます。

決して悪いことではないと思いますが、多くは「独立」と混同されているように思います。

自立の定義・・・他への従属から離れて独り立ちすること。他からの支配や助力を受けずに、存在すること。
独立の定義・・・他のものから離れて別になっていること、他からの束縛や支配を受けないで、自分の意志で行動すること、自分の力で生計を営むこと。

今の日本では「自立」「独立」といった場合、「親元から離れて自力の収入で生きられること」を指して言うことが多いです。

いつからこんなことが言われ始めたのでしょうか?

おそらく平成になってからこの傾向が一番強くなりました。

まず戦前、戦後、昭和初期の頃は「自立」「独立」は重んじられていませんでした。

むしろ、家族である親元から離れることは「親不孝」と言われて社会的にもダメなことと言われていました。

はっきり書くと、この「自立」「独立」というのはキリスト教プロテスタントの宗教思想です。

「独立」も「自立」も同じ「independence」です。
Independentの in は、「否定」の意味を表す接頭語です。independent = 「in (否定)」+「depend (依存している)」⇒「依存していない」⇒「独立している」 となります。

肯定的な意味で最も多く広まったのは、1520年にヴィッテンベルクで発表されたマルティン・ルターの『キリスト者の自由』からでしょう。


ルターはキリスト教プロテスタントの源流となる人物です。

ルターは、「キリスト教者の自由」で、信徒達に対して(それまで支配的だったカトリックの)教会組織に忠誠を誓うのではなく、自己愛を捨てて神や隣人に積極的に尽くすように呼びかけました。

この宗教革命から、清教徒革命/ピューリタン革命(1641年から1649年)、名誉革命(1688年から1689年)が起こり、農業革命・産業革命(1760年代から1830年代)、フランス革命(1787年から1799年)へと続きます。

それと並行して、このプロテスタンティズムの流れが、1775年から1783年までアメリカ独立戦争(American War of Independence)を起こして「アメリカ」という国家ができます。
イギリスの北米植民地が1776年7月4日に独立(independence)を宣言して成立した国家がアメリカです。

ここから「自立/独立(independence)とは、素晴らしいことだ。」というキリスト教プロテスタントの教理がより肯定的になります。

ルターの「キリスト教者の自由」でも語られるように、イエス・キリストはユダヤ教から「独立」し「自由」に教えを説いた、という解釈で、そのような人間を理想とします。

日本では、敗戦する戦後までは、「家族を大切に」の儒教の教えが、武士(朱子学=儒学)の影響で強く残っていました。

戦前に、イギリスに資本主義(プロテスタンティズムの精神)を学んだ政府が、教育として、「キリストのようなメシアが必要だ」となり、日本の二宮金次郎(二宮尊徳)を日本版のメシアにして崇拝しまくったことはありました。(※)

(※)ルターのキリスト教プロテスタントの基礎は、ジャン・カルヴァンの予定説にあります。予定説とは「神様が最初からすべて必然の宿命を決めている」という教えです。
「どんな低い身分でも誰でもチャンスはある」=予定説カルヴァン派の「平等」の機会の教理の基礎
「どんな人でも勤勉で頑張れば成功する」=勤勉の精神
「贅沢はするな(質素・倹約)」=予定説カルヴァン派の金持ちになる教え
・・この条件で、日本のメシアにされたのが二宮金次郎でした。だから小学校に銅像が立てまくられました。


しかしそれでも、「自立/独立」は、儒教の親を敬う教えにも、天皇の血族的な教えにも、日本仏教の教え(檀家制度)にも反するので入り込みませんでした。

それが、高度経済成長期を過ぎて、バブルを過ぎて、80年代、90年代と、年代を追うごとに強く「自立/独立」が叫ばれるようになりました。

日本経済が傾きはじめ、家族のケインズ型から、競争のハイエク型に変わったというのも背景として拍車をかけたと思います。

ただ、知っておいて欲しいのは、この「自立/独立」というのは間違いなくキリスト教プロテスタントの宗教思想であり、本来の日本人に合っているかはかなり疑問であるということです。

そして家族友人問わずキリスト教プロテスタントでもない人、まして学校などの義務で自由とは隔離されたような場や、同じように学校会社などの儒教的な階層の組織の場、あるいは共産主義者のような唯物論者に、「自立しろ」なんて言われたとしたら、大矛盾していると思っていいです。

少なくても彼らは「自立/独立」していないからです。この言葉を言えるのはキリスト教プロテスタントの人か、その精神をもつ会社社長・経営者のみです。

そうであったとしても、「自立/独立」とは、「親元から離れる」ということは必ずしも当てはまりません。

プロテスタンティズムの精神である「合理的精神」(損得勘定)に反するからです。


16歳には「ルムシュプリンガ」と言って、自立の労働を促すあのアメリカ人でさえ高卒・大卒したあとでも「今はリスク回避のために親元にいるのが合理的判断」と言われています。
これは「ブーメラン世代」と呼ばれています。日本も共通ですね。

ブーメラン世代現象 http://www.y-asakawa.com/Message2010-2/10-message95.htm
“ブーメラン世代”が社会現象に-ヤフーニュース http://videotopics.yahoo.co.jp/videolist/official/news_business/p2e72d3f94e6585755687c573595d7f48
Boomerang Generation(英語Wikipedia) http://en.wikipedia.org/wiki/Boomerang_Generation
The Boomerang Generation http://www.pewsocialtrends.org/2012/03/15/the-boomerang-generation/

世界失業率5.9%-12年=若者の雇用問題、深刻に(時事ドットコム) http://www.jiji.com/jc/zc?k=201301/2013012200099&g=int
(転載はじめ)
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【ジュネーブ時事】国際労働機関(ILO)は22日、雇用情勢に関する報告書を発表、2012年の世界の平均失業率(速報値)は5.9%と11年から横ばいとなった。世界経済の回復が遅れているため、13年から17年まで6.0%に高止まりすると予測。特に若者の深刻な失業は「極めて心配」(ライダー事務局長)と警告している。
失業者数は推計1億9730万人と11年から420万人増加。先進国の景気低迷が貿易の減少などを通じて新興国にも波及し、13年の失業者は2億人を突破すると予想している。(2013/01/22-08:11)
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(転載終わり)

日本でも適職判断などで「自立/独立」と言われますが、アメリカでも日本でも心理学(動機付け理論)では「完全内発的動機付け」をしている人間という、聖人のような人間を最高だとして想定します。

そしてそんな完成された人間は存在しないと言われています。

本場のアメリカでさえ今は「自立」は「合理的判断に反する」と考えているのですから、日本はキリスト教プロテスタントの教えを真に受けて「自立という名の宗教」を押し付けがましく流行らす必要はないと感じます。

「自立」とは素晴らしいことだとは思いますが、親元から離れるという判断と必ずしも合理的に合わないこともあるからです。

逆に親元にいても「自立/独立」と呼べるのです。あまり言葉に負担をかけないほうがいいと思います。

「甘え」と「空気」の心理学
http://libpsy.com/amae-and-kuuki-psychology/877
「ごんぎつね」に観る日本人の心理とは?
http://libpsy.com/gon-fox/740

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記事を書いた人



時田憲一(ときたけんいち)こと時ニール(tokeyneale)です(・ω・)ノ
とある国立大学の教育学部/心理発達科学。心理学者・認定カウンセラー。動機付け理論・自己愛・対人関係が主な研究領域。数理統計データサイエンティスト。
ねこ好き・本好き・禅好き・PC好き。

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