降りてゆく生き方

 

武田てつや(武田鉄矢)さんが主演の映画「降りてゆく生き方」を観た感想レビュー!
隠れた名作!口コミだけで広まり映画館でやらずにDVD化もしない
なのに観客動員数10万人以上というロングランヒット作品!その秘密の内容とは!?現在上映映画・現在公開映画

心理学者・カウンセラーとして、
ひきこもり支援士認定協議会
https://www.khj-hsc.org/index.html
からの代表の方からご縁を頂いて、映画「降りてゆく生き方」を見てきました。
150人の会場だったのに、250人近く集まっていてびっくりしました。

映画「降りてゆく生き方」
https://www.nippon-p.org/index.html
主演:武田鉄矢、沢田雅美、渡辺裕之、苅谷俊介、大谷允保 ほか
監督:倉貫健二郎
撮影:赤川修也

この映画は、映画館の公開やDVD化はされておらず、口コミ情報やチラシ広告のみで評判が広がっている映画です。

これは別に内容が悪かったりクオリティが低いという理由からではありません。
主演や監督を見ても分かるように、知名度のあるベテラン・大物を使っています。
ではなぜかというと、日本は(映画・テレビの)「放送利権」があって、映像をテレビや映画で公開すると同時にDVD化まで見越され、映画館・広告会社がその売り上げの大半を持って行ってしまうからです。
簡単に言うと、映画には「映画製作会社」(作る会社)「映画配給会社」(宣伝して売る会社)があって、今でもヤクザな「映画配給会社」が独裁しています。
「映画の内容が良かったんじゃなくて、オレらが映画館に誘致して売れるように宣伝したからだ。」という理由で牛耳り、映画を製作した会社には少しの売り上げしか与えないわけです。なので映画製作会社はすぐ潰れるわけですね。
アメリカ・ハリウッドの場合、主演男優・女優の1発のギャラで数千万円とか払いきって、それ以降のDVD化による印税などは入りません。
しかし日本は主演でも数十万~数百万のギャラで安く雇い、DVD化して売ることでその印税を振り分けています。
そのDVDの印税ですら0.3%くらいだったりで、ほとんど広告会社(広告代理店・電通=官僚・総務省の天下り)が売り上げを持って行ってしまいます。
製作会社の現場は外注扱いでスタッフも低賃金だったりバイトだったりと極めて軽視されています。
これはテレビの構図も全く同じです。↓(参考文献)

例えるなら、映画館で1発の花火を上げさせて、生で見た人からカネを取り、それを録画してDVDにしてさらに大量に売ってる人がいるのですが、それは別人で、花火を作った花火師にはお金は入っていないのです。
だから花火師はお金が入らないので2発目の花火は作れず、1発ずつ上げるだけで、日本製作の邦画は連続(ロングラン)で打ち上げ続けてヒットさせることができない仕組みになっています。
(つまり結局、日本の邦画より、海外で製作されて完成されてる映画やドラマを輸入して宣伝した方が儲かるという自然帰結になってしまう。)

なので、日本において「映画配給会社」(広告代理店)を通さずにDVD化もしないという判断は妥当であり、なによりこの映画のコンセプトに合っていると思いました。

実際に、主演の武田鉄矢はこの映画でノーギャラです。(↓)

日経新聞:武田鉄矢、「当たる要素ゼロ」の映画を語る(動画あり)超ローカル映画が、奇跡のロングランを続ける理由(2011)
https://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110607/220531/

 

さて、前置きが長くなりましたが、この映画のレビュー(感想)です。

まずここまでの時点で、コンセプトとして相当に素晴らしいと思います。
すでに監督および撮影・音楽スタッフ・主演の芸能人まで全員が「儲けたい」という動機ではなく、そもそもノーギャラで予算もないの「好きだからやりたい」「この作品を広めたい」というほぼボランティアな動機で集まっていることは明白です。
もし売名行為が前提なら、カネが入らないと意味ないので、こんなカネにならないような作品を作ったり、出ようと思ったりはしないわけです。

●良い点としては、
・この口コミ(噂)と評判に委ねるという次世代の「評価経済」に合った純粋な映画製作は先駆的であり素晴らしい。(普通の映画館の映画より投資したくなる、実際の売り上げは次の会場に回されてるそうだ)↓(参考文献)

・監督およびスタッフも主演もボランティアのノーギャラで、利権でDVD化すらされてないので、動機が純粋である。24時間テレビのように事務所からカネが支払われてるから出てるのにボランティアや福祉を宣伝するウソくさい詐欺さがない。一種のフリーミアムだろう↓(参考文献)

何か宗教的な信条があるかと思ったが、主演やスタッフの共通点を探しても別にそんなことはなさそうだった。(上映する主催者によってその色が出ているところはあるかもしれないが)
・NHKの「プロフェッショナル-大人の流儀-」の番組でも特集された無肥料・無農薬で作る「奇跡のリンゴ」の木村秋則氏(↓)が、しょっぱなから外資ファンドに「こいつの田舎の畑を買収して世界に売れば儲かる!」という愚直すぎる展開が、かなり面白かった。特に悪いようには扱われないが、推してくると思って見てた方はいきなり面食らったと思う。↓(おすすめ書籍)

・タイトルの「降りてゆく生き方」は、北海道の精神病院の「べてるの家」の発想が元ネタ新しい価値観を体現化して映像化した点で、極めて有意義

グローバリズムに対して、ローカリズム(正確にはパトリオティズム:愛郷主義という)を推しているのが良い。よくある対抗はナショナリズム(愛国主義)だが、ナショナリズムはグローバリズムという全体集合の中の部分集合なので論理で負けてしまう。そのナショナリズムの更に細かいパトリオティズムならグローバリズムの全要素も包含してるので論理で負けない。それを「自然の中で住んで学ぶ」という展開もいい。

・主人公の名前の由来で、右翼の山本五十六で「トラ・トラ・トラ」が大好きとか言いながら、左翼の全共闘を懐かしんで学生運動のヘルメットかぶって著名運動するシーンが個人的にかなりカオスで面白かった。右翼にも左翼にも受け入れられる秀逸なキャラ設定だと思う。↓(おすすめ書籍)

・ファンドの社長が悩んだあげくパトリオティズムな人類救済ファンドを目指して旅に出るのがよかった。しかもその勧誘を断りながら「あいつは正しい」と言うおコメのおっちゃんの言葉が良い。
・死に物狂いになったあげく、自分から墓に入って「明日死ぬかもと思って生きてみな。儲けるとか上がろうとかどうでもよくなる。」と言うシーンが、感慨深いものがある。
・押し付けがましいキレイ事なセリフではなく「良い腐りを発酵。悪い腐りを腐敗というだけだ。」などありのままに相反する淡白なセリフが美しい。考えさせられるメッセージ性が高い

 

●しいて悪い点を上げるとすれば、
・後半の展開があまりにも「ご都合主義」でたたみかけ過ぎた。(生徒の急な改心や、賛成派が急に敗北宣言したり、マスコミリークで公職選挙法違反にするはずだったのを旗を上げて妨害するシーン、メールで財産渡すシーンなど)
・団塊世代が負け組で、若い世代に会社を押し出されたように描かれているが、日本の個人金融資産(日本中に散らばるお金)の6割以上は65歳以上の人の年金であり、残りの少ない4割を現役労働者世代で奪い合ってるのが現状なので、団塊世代は被害者意識で共感できても、自殺や過労死してる現役労働者世代が共感できるかは微妙。
・動物や自然を守ろうとするコンセプトは子どもにも分かりやすくて信条としては良いのですが、これを選挙で言って行政すると「ナチュラリズム(Naturalism)」や「アニマル・ライツ(animal rights=動物権)」と言って官僚や公務員のための増税利権しか生まず、最終的に保護どころか逆に公共事業での自然破壊が進むどころか、劇中の酒屋および商店街は税金の負担により道路開発よりも早い段階で潰れる。
・伝統ある酒屋だけしか描写されてなかったので、他の伝統もない商店街の反対派の住民がみじめすぎた。
・なぜかクマに追われるシーンが文化祭かコントレベルにあまりにも安っぽすぎる上に長い(もっとあのシーンこそ短くてよかった)
・重要なシーン(子グマがアレされるシーン)なのに強制的に展開を加えるために唐突な4コマ漫画のように終わって違和感があった。

・・・個人的にレビューを良い点・悪い点で、まとめるとこのような感じです。

だからこそ「降りてゆく生き方」というこの作品は観客動員数10万人以上というロングランヒットをしています。日本の邦画としては相当でしょう。

今後もこのような作品が増えていって欲しいと思います。

子どもと見ても分かりやすい内容になっているので、もし今住んでいる場所の近くでご縁があれば、一人でも親子でもご覧になることをオススメします。

NHK 「降りてゆく生き方」